コラム


機転と職務のはざまで

雨足強い日に、和服を着ての外出用があったときのこと。

「大通りまで出て流しの車を待ち続けるより、タクシーが常駐しているより近い病院の方が確実に乗れるだろう」そう考えて向かったものの、いつも1、2台は待っているはずが車も人の姿もなく閑散としている。そのとき、バスや見舞い客の誘導のために雨の中に立っていた若い警備員が私に気づき近寄って「今日は日曜で・・・休診日でして、タクシーは来ないのです」と言い、「通りまで出て、呼んできます!」と、さっと走って行った。

見ていると、タクシーはなかなか通らないように思えた。彼は気が気でなかったろう。その間にバスや見舞いの車が入ってきたり、の可能性があったから。何かことが起こったら、彼は務めを疎かにしていた責を負う羽目になるだろう・・・うかつにも休診日だったことを忘れて、病院から乗ろうとしたことをそのとき申し訳なく思った。出入りは殆どない休日だったのは幸いなことだった。

ほどなくして1台がすーっと車寄せに入ってきて、ようやくホッと乗りこむことができた。この若い警備員に礼を言おうと見渡したが、彼は既に持ち場にもどり何事もなかったように立っていた。耳や目が後ろについているような機転の効く警備員であった。

全く気がつかない者もいるだろう。気づいて「今日はタクシーサービスはない」と、知らせには来る者もいるだろう。そしてこのように、ちょっとの間を惜しみなく、明らかに病院関係者でない人の便を図る労をいとわない者もいるだろう。

警備会社はどう見るだろう。

H.N.